運び屋
- 原田崇央
- 2019年3月15日
- 読了時間: 3分
これ、来年のキネ旬ベスト・テンの洋画1位になりそうだな…。
そして、キネ旬ベスト・テン1位に輝いた「グラン・トリノ」のアナザー・バージョンという風にも感じた。
差別している意識はないが、無意識に差別的言動が出てしまう老人の主人公というのは同じだし。
前回はアジア系だったのが、今回はメキシコ系や黒人になったって感じで。
主人公はスペイン語を覚えたり、トラブっている黒人を助けたりするが、本当の差別主義者なら、そんなことしないから、無意識なんだろうなというのがよく分かる。
そういう意味ではアカデミー作品賞を受賞した「グリーンブック」に通じる部分も多いんだよな。
なのに、賞レースには無視されている。
それって、絶対、イーストウッド御大が共和党支持者だからだよね。
トランプ当選が決まって以降の賞レース対象期間には、本作を含めて3作品を発表しているが(残りの2本は、「ハドソン川の奇跡」と「15時17分、パリ行き」)、どれも、テーマといい演出といい、賞レース向きの作品なのにね。
最後に賞レースを賑わせたイーストウッド監督作品が、トランプ当選の1年前のシーズンの「アメリカン・スナイパー」だから、本当、分かりやすい。今の米国芸能界、特に賞レース関係は本当におかしいと思う。
御大自身は共和党支持者だが、作風はどちらかというとリベラル、下手すりゃ左なのに…。
テーマといえば、「運び屋」を含むこの10年のイーストウッド監督作品、「ヒアアフター」以外全て実話ベースだな…。というか、「ヒアアフター」もスマトラ島沖地震の場面があるから、実話ベースといえなくはないか…。
あと、本作がキネ旬ベスト・テンの1位になりそうなのは、スマホの操作もメールの打ち方もよく分からない高齢者が何でも、ネット頼りにしている人たちを批判しているって点かな。選者の年齢層の高いキネ旬には好かれそうだ。(そういえば、劇場で自分は最も若い観客の部類に入っていたような気がする)そういうアナログ志向は御大の映画作りにも通じるしね。(携帯絡みで納得いかないシーンもあったが…。ガラケーをドラッグディーラーに捨てられたのに、孫がコンタクトを取れたのは何故?ドラッグディーラーから渡された仕事用スマホの番号を教えていたのか?)
本作で一番良かったのは、イーストウッドとブラッドリー・クーパーのシーン、結構、鳥肌モンだった。
この2人が再会するシーンでブラッドリー・クーパーが発する「YOU」という台詞が良かった。
そのたった一言で、キャラクターのみならず観客にも全てを理解させるのは見事!
この「YOU」の使い方の素晴らしさは「街の灯」に匹敵する!
よく考えたら、イーストウッドもブラッドリー・クーパーも、チャールズ・チャップリン先生も、俳優兼監督だな…。

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